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2017.6.24 | 
From:萩原 敬大(はぎわら たかひろ)

「またコイツかよ、、あームカつく!」

先週、Amazonビデオで、「再生巨流」という映画を見ながら僕は思わず独り言を漏らしていました。なぜかというと、、この映画は、ある運送会社の優秀なセールスマン吉野が、左遷からの再起をかけて立ち上がり、最終的には会社のビジネスモデルをもガラリと変えるような大仕事をやってのける。というストーリーなのですが、、その途中、幾度となくライバル会社の近藤という嫌味な常務によって、行く手を阻まれるからです。

映画を観る時って、どうしても主人公に感情移入してしまいますよね。この映画の主人公の吉野は、すごくまっすぐな信念を持って仕事をしているのに、いっつもいいところで手柄を奪われる…  しかもそのライバルは、たとえ不正行為を働いてでも実績を上げようとする汚い男。そんな構図に心底ムカついてしまい、いつのまにか感情を動かされ、引き込まれてしまっている自分がいることに気づきました。(笑)



このように、優れた映画や本などの「物語」には、必ず主人公の行く手を阻む「敵」の存在がいます。きっとあなたならご存知だと思いますが、これはマーケティング・セールスにおいてもとても効果のある方法です。(マーケティングでは共通の敵などと呼ばれますね。)

今日は、この「敵」を作ることがなぜこんなにも効果があるのか、マーケティング・セールスではそれをどう使えば効果的なのか、、いくつかの実例とともに解説していきたいと思います。この「敵」というのは、実は全ての人間に遺伝子レベルで組み込まれている本能へとアプローチするので、思ったより深いものです。すでに知っている。という人は多いかもしれませんが、これらの背景を知ることで、もっと使い方がうまくなるはずです。

 

天才的な指導者たちは「敵」を効果的に使ってきた…


 

「大衆運動」という、社会運動や政治・宗教など、これまで大規模な成功を遂げてきた運動において、共通する特徴を分析した本があります。(ちょっとマニアックですが、、ダン・ケネディ、リッチ・シェフレンがともに推薦する、人間の行動心理の本質がわかる本です。)

そこでは「大衆運動」を成功させるための1つの特徴として、人間の「憎悪」の感情を利用する必要があると述べられています。これはまさに敵を作るということなのですが、、ちょっと引用すると・・

”「大衆運動は、神への信仰がなくても拡大するが、悪魔への信仰がないとそれは不可能だ。悪魔の存在が確実で、それが強烈なほど強力になるものである。

偉大な天才指導者は、すべての憎悪を単独の敵に集中し、互いに遠くかけ離れた敵対する存在でさえ、唯一の範疇に属しているかのようにしてしまう。

つまり、「共通の敵」に対する憎悪を持つということは、全く異質な要素さえも結合するものである。共通の憎悪を分かち合うということは、その相手がたとえ敵だったとしても、血を分けた仲間だという感じに誘い込んで、抵抗する気力を奪う。」”

「大衆運動」エリック・ホッファー著より引用:

このように、敵の存在は神への信仰よりも強力だということ。さらに、敵への「憎悪」は「愛」という感情よりもはるかに人を行動へと駆り立てるパワーがある。そんな風にもここには書かれているほど、敵の存在、そして敵への憎悪は強力な感情の引き金になるそうです…

 

ヒトラーがユダヤ人を迫害した”本当の狙い”


 

また、、あの残酷なナチスドイツの指導者:アドルフ・ヒトラーはこの「敵」の要素を非常に効果的に使って大衆運動を成功させた人物ですが、彼はこの「敵」の要素がかなり重要だということを知り、あえて使っていたことがよくわかるエピソードがあります。

ヒトラーは、ユダヤ人を徹底的に敵対視し、「ドイツと中央ヨーロッパからユダヤ人が排除されることを人々は永遠に感謝するだろう。」などという発言を繰り返し、実際に迫害を実行していました。

ある時、1人の記者がヒトラーに対して「ユダヤ人を全滅しなければならないんですか?と聞きました。それに対してヒトラーは・・

”「いや、そうしたら我々はユダヤ人を発明すべきである。単に抽象的なものではない。手に触れて確かめることのできる敵を持つことが大切である。」”と、答えたそうです。

また、中国の蒋介石は「日本人」を敵にして大衆運動に成功しましたが、敗戦によって日本人が舞台から消えた後、新たな敵を作らずに失敗してしまった。そんなエピソードもあり、いかにこの「敵」の存在が強力かということが伺えますよね。

よく考えたらアメリカの大統領戦なんて、まさにライバル候補を敵(悪魔)に仕立て上げて、いかに民衆を味方につけて、相手をこき下ろすか。そんなことばっかり繰り返されていますよね。それほど効果があるということなんでしょう…

 

よく似た22人の少年を、
”2つのチーム”に分けたら起きたこと…


 

ここに1954年、オクラホマ大学の研究チームが、あるボーイスカウトのキャンプで行った実験結果があります。

実験の対象になったのは、性格・能力などができるだけ等質になるように選ばれた11歳の白人の少年:22人です。皆、プロテスタントを信仰し、IQも似たような数字、不良などはおらず、同じ地元出身でした。(ただ、知り合い同士にはならないよう、違う学校から選ばれていました。)

そして、彼らを2つのグループに分けてサマーキャンプを始めました。(ただし彼らは別のバスで来て、別のキャビンに止まったので、お互いの存在を最初は知りませんでした。)それぞれのチームは、自分たちで「ラトラーズ」と「イーグルス」とチーム名をつけて、集団生活を始めることに。

彼らが”同じチーム内”の人間関係を気にしたのは最初の数日で、すぐに打ち解けましたが、、ある時同じキャンプ場に、自分たちと同世代の”別の集団”がいると知るや否や、相手を打ち負かすことに夢中になり始めたそうです…

 

似た者同士のはずが、、
チームを分けるだけで激しい”憎み合い”に…


 

そして彼らはいよいよ、野球大会で初めて顔を合わせることに。すると「ラトラーズ」はいきなり自分たちの旗を球場に掲げ、野球場全体が自分らのものだと宣言しました。試合は「イーグルス」が負けたのですが、彼らは「イーグルス」の旗を引きずりおろして火をつけて燃やし、あわや乱闘騒ぎに。。

そのあとの綱引きでは、逆に「イーグルス」が勝ちましたが、その夜「ラトラーズ」は相手のキャビンを襲い、ベッドをひっくりかえし、蚊帳を破り、ジーンズを盗むという凶行に出ました。すると、、これに対して、「イーグルス」はバットを持って、真昼間に「ラトラーズ」のキャビンに反撃を加えました。

この実験で面白いのは、、もともと似たような性格・バックグラウンドを持っていたはずの彼らが、無意識のうちに自分たちを”敵対する集団と正反対のキャラクター”にしようとしたこと。

具体的には、、2回目の野球大会で「イーグルス」が勝った時、彼らはなぜ勝てたかを話し合ったそうですが、ある子供が「僕らは試合前に祈りを捧げたからだ。それに比べて相手は汚いヤジを連発していた。」と言ったところ、、それ以来「イーグルス」ではヤジが禁止になったそうです。

こうして、元々は22人とも「保守的なキリスト教の家庭」で育ったのに、2週間もしないうちに「ヤジを連発する野蛮なグループ」と、「祈りを捧げるおとなしいグループ」に分かれてしまったのです。

ちなみにキャンプ中は誰もが自分たちの集団の掟には従いました。2つのチームが敵対しても、”集団内”の結束は固く、いじめは皆無だったと言います。

参考文献:「言ってはいけない―残酷すぎる真実」 橘 玲 (著)

 

敵の敵は友


 

ここから学び取れるのは、、この「敵」を作るというアプローチはただの表面的なテクニックではなく、実は人間の中に「遺伝子レベル」で組み込まれている本能に訴えかける、とても強力なものだということです。

やはり人間は社会的な動物なので、集団から排除されたら一人では生きていけません。世界の歴史を遡ってみても、、やはり世界を内側と外側に分け、仲間の結束を高め、自分以外の「敵」を倒して縄張りを奪う。その繰り返しで発展をしてきたので、、現代では少しその争いの形は変わっているものの、本能レベルでは変わらないのです。

よって、このことをマーケティング・セールスにうまく応用することができれば、、強力なパワーを得ることができます。

これまで見てきた事から分かるように、人々が“共通の敵”に直面すると、個々が生き延びるために結束し、一致団結します。共通の敵が人々を互いに親しくさせ、同じ“被害者たち”の間に親密さや友好関係を育んでいきます。

敵の敵は友。などという言葉もあるように、見込み客に対して適切な「共通の敵」を作ることができれば、あなたは単なる”セールスマン”ではなく、見込み客と一致団結して”敵と戦う仲間”になるということです。そこでうまく解決策を提供してあげれば、、それはセールスとは思われずに、見込み客の固いガードをすり抜け受け入れてもらえる可能性は高くなります。本当に不思議なんですが、効果的にこれが使えると、、あっさりそうなってしまうんです…

 

「共通の敵」:マーケティングへの応用事例


 

有名なところだと、今は亡きアップルのスティーブ・ジョブズは、「マイクロソフト」はクソだと言い続け、マックとウインドウズの比較広告を出すなど、この「共通の敵」をうまく使っていた代表的な人です。

また、海外の有名セールスライターたちは、その市場にもよりますが、、この「共通の敵」をとても有効に使っています。(投資とか、健康関連はほぼ間違いなく使われていますね。)



例えば、ウォール街の高給取りCEOのクソ野郎とか、二枚舌の強欲トレーダーとか、患者のことなど考えずに”チョキチョキ”と体を切り刻むのが大好きな外科医とか、患者の命よりも金儲けにしか興味がない製薬会社とか、、それだけ怒りの感情を持っている人が多い、そして強いマーケットではすごく効果があるようです。

ダイレクト出版でも、効果的な事例で言えば、、
「経済情報を売るサービス」は、真実を伝えない新聞・テレビなどのマスコミを敵に設定していますし、「歴史コンテンツを販売する事業」でも、同じように新聞・テレビなどのマスコミ、それから情報操作・プロパガンダに大金を使っていいように他国を操る中国などの大国を敵に設定しています。「洋書を専門に扱う出版事業」では、、日本の出版業界の、中身のない薄い本を大量に作るやり方を敵にしてうまくいっています。

 

あなたはどんな”敵”から見込み客を守る?


 

ここまでで、「共通の敵」が有効な本当の理由、それをマーケティングに使う効果の高さ、応用の事例などを見てもらいましたが、、最後に、マーケティングにおいて「共通の敵」を設定するための”3つのポイント”をご紹介して終わりたいと思います。

Point⑴:特定の個人ではなく、もっと大きなものを対象にする

例えば、国、国税局、医者、製薬会社、証券会社、銀行、政治家、、マスコミなどなど、、何か大きなもので、見込み客が怒りを感じているターゲットを敵にするのがポイントです。

よくあるのが、、身近な人とか、似たような競合を敵にして、批判してしまう人がいるんですが、、これは大きな間違い。これは単に自分の器が小さいということを露呈するだけで、見込み客から見たステータスは逆に下がってしまいます。(ネットで胡散臭い情報商材を売ってる人なんかは、こういうことしてる人が多いなという印象ですが、これは単に自分の価値を下げているに過ぎません。)

恋愛に例えたら、、好きな子がいるとして、その子の気を引こうと、周りにいるライバルになりそうな男友達の悪口を言うようなもの。「知ってた? あいつって、実はめちゃくちゃ性格悪いんだよ。この前さ・・・」

これって逆に、自分の評価やステータスを下げてしまうだけですよね。相手を逆に誉めるくらいの方が、「この人は器が大きそう」と思われて評価が高まるのと同じだと思います。

Point⑵:多くの長所のある相手を選ぶ

これは「大衆運動」の中でもあったのですが、、相手に全く取り柄がない場合より、相手が多くの長所を持っていた方が憎悪の対象にしやすいそうです。(おそらくヒトラーのユダヤ人なんかはおそらくこれに当てはまりますよね。ユダヤ人てすごくお金儲けがうまかったり、賢い人が多いという話を聞くので。)

やはり人は、自分が見下している人を憎むはずがありません。Point⑴と同じですが、自分より下の人に対してワーワー騒いでも、自分のステータス下がるだけです…

Point⑶:意外な敵を作る

これはいわゆる、見込み客の「ビリーフ」(見込み客がこれは正しい。と、信じていること。やっていること。)をしっかりとリサーチできていることが条件になりますが、、見込み客にとっては思いもよらぬことなので、うまく使えれば一気に注意を引けますし、あなたが以外にこんなことを言う人はいないので、見込み客から信頼されます。

例えば、、これが正しいかどうかは専門家じゃないんでわからないですが、、ダイエットをしようと頑張っている見込み客に、「太るのは”カロリー”が原因だと思ってましたよね。そうじゃないんです… 実は本当の敵は”糖質”なんです。」みたいな感じでしょうか。(ちなみに敵というのは人じゃなくてもokです。)

以上、マーケティングにおける「共通の敵」を設定するための”3つのポイント”でした。

もちろん、「敵」というのは必ず必要というわけではないですし、一部のコモディティ商品、例えば家電製品とかには使えません。でも、、これまで見てもらった通り、、マーケティングにおいて敵の効果は絶大です。簡単そうに見えて、深い部分を理解していないと、実は使うのが難しいですが、もし使えるなら、ぜひ使ってみてください。

萩原 敬大

萩原 敬大
萩原 敬大

Strategic Profits マーケティングマネージャー
メールマガジン購読者数41,238人(2017年1月5日時点)日本におけるリッチ・シェフレンの独占販売権を持つ【Strategic Profits】のマーケティングマネージャー兼セールスライター。販売プロモーションの企画、広告運用、セールスコピーのライティングなどを統括している。

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